このページの要点
- 使用媒体・公開期間・地域・二次利用・他の案件への流用・再許諾の6つの軸で許諾の範囲を特定する。
- 契約終了後の公開の継続、未公開分の公開、再編集、広告利用を明記し、削除の申出には30日以内に回答する手順を置く。
- 事務所所属の演者は事務所と契約しつつ、本人が署名した同意書を確認資料として保管する。
- 過去の出演動画に新しい範囲を及ぼすには、対象の動画を特定した本人の追加の同意が要る。
結論:出演者の権利は著作権とは別。範囲・終了後・本人の同意を決める
動画には人が映ります。出演者が誰かによって、処理すべき権利と同意の取り方が変わります。発注者の代表者や従業員、来店客など発注者が手配した人、制作会社や運営代行会社が手配したモデル・インフルエンサー・演者、撮影現場にたまたま映り込んだ人、未成年者や事務所に所属するタレント。このページでは、制作側が手配して出演してもらう「演者」との契約、つまり出演契約書の作り方を扱います。発注者側の従業員やお客様、子どもの写真の掲載同意は肖像権の同意書のページ、撮影現場の映り込みは撮影現場のページで扱います。
出演契約書で決めることは、大きく3つです。
- 肖像権・パブリシティ権・実演家の権利について、使う媒体・期間・地域・二次利用などの許諾の範囲を具体的に特定すること。
- 契約が終わった後に、過去の動画を公開し続けられるか、未公開の動画を初めて公開できるか、再編集や広告に使えるか。削除を求められたときの手順。
- 事務所に所属する演者や、本人が代表を務める法人と契約するときに、出演する本人の同意をどう確保するか。
成果物の著作権を譲り受けていても、これらの権利は一切移転しません。SNS運用代行会社が演者・撮影担当・編集者などに外注する契約一式を整えた案件では、演者用の業務仕様書だけが他の職種の約3倍の分量になりましたが、その理由がここにあります。依頼者原案は動画編集者を想定した基本契約だけで、演者の権利の処理はまったく書かれておらず、整備方針の提案書ではこれを最優先の指摘の一つに挙げました。
出演者について処理する3つの権利
出演者の権利の整理
| 権利 | 中身 | 契約での扱い |
|---|---|---|
| 肖像権 | 人がみだりに容ぼう等を撮影・公表されない人格的な利益。法律の条文ではなく、裁判例で認められてきた | 使う媒体・期間・地域・二次利用を特定して許諾を得る |
| パブリシティ権 | 肖像や氏名が持つ、顧客を引き付ける力を排他的に利用する権利 | 広告利用や他の案件への流用を、許諾の範囲として明記する |
| 実演家の権利 | 演技・歌唱などの「実演」についての録音・録画権、送信可能化権など(著作隣接権)と、氏名表示権・同一性保持権(実演家人格権) | 許諾範囲の利用に必要な限度で行使しない約束を取る |
著作権法は、著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含みます)を「実演」とし、俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者などを「実演家」としています(著作権法2条1項3号・4号)。実演家は、実演家名を表示するかどうかを決める権利(同法90条の2)と、名誉又は声望を害する実演の改変を受けない権利(同法90条の3)を持ち、これらの実演家人格権は本人の一身に専属し、譲渡することができません(同法101条の2)。そのため、契約では本人に「行使しない」と約束してもらう形になります。
なお、実演家の許諾を得て映画の著作物に録画された実演には、その後の録画について録画権が原則として及ばず(著作権法91条2項)、許諾を得て録画されている実演には送信可能化権も及びません(同法92条の2第2項1号)。いわゆるワンチャンス主義です。しかし、この規定が働くのは実演家の許諾を得て映画の著作物に録画した場合に限られ、短いSNS動画がどこまで映画の著作物として扱われるか、許諾がどの利用まで及ぶかは個別の判断になるので(映画の著作物の考え方は動画制作の契約書と著作権のページ)、これに頼って権利の処理を省くのは危険、というのが事務所の書類の一貫した立場です。肖像権・パブリシティ権には、このような規定はありません。
出演契約の骨格:演者用の業務仕様書の設計
先のSNS運用代行会社の改訂版では、演者用の業務仕様書が実質的な出演契約書になりました。主な設計は次のとおりです。
- 契約の性質は個々の出演についての準委任で、雇用ではない。撮影の日時・場所は候補を示して協議して決め、一方的に指定しない。体調不良のときは通知・協議とし、休憩など合理的な配慮をする。
- 出演料には、実演家の権利・肖像権等の許諾の対価を含む(区分しない)。継続して出演するときは協議で改定できる。
- 実演家人格権(氏名表示権・同一性保持権)は、許諾範囲内の利用について行使しない。氏名・芸名のクレジットの表示は本人の希望による。通常の編集の範囲内の容姿の加工は可、同一性を著しく損なう加工は事前の承諾。
- 実演家の著作隣接権(録音・録画権、放送・有線放送権、送信可能化権、譲渡権など)は、許諾範囲の利用に必要な限度で行使しない。
肖像権・パブリシティ権の許諾範囲を特定する6つの軸
| 軸 | 改訂版での定め |
|---|---|
| 使用媒体 | 委託者のSNS、クライアントのSNS・ウェブサイト、有料広告、委託者の営業資料・実績紹介、個別発注書で指定する媒体 |
| 公開期間 | 無期限。ただし個別発注書で別の期間を定めた案件はそれによる |
| 使用地域 | 全世界 |
| 二次利用 | 切り抜き・再編集・別の尺の投稿への転用を可とする |
| 他の案件への流用 | 他のクライアントへの流用は禁止 |
| 再許諾 | 禁止。ただしクライアントへの業務目的の範囲の再許諾は除く |
範囲外の利用は、事前の承諾が必要と定めています。
条文例演者用業務仕様書 第◯条(生成AIへの利用の禁止)
1甲は、乙の事前の承諾なく、乙の肖像、音声及び映像を、生成AIの学習用データとして利用し、又は合成画像、合成音声若しくは合成映像(いわゆるディープフェイクを含む。)の作成に利用してはならない。
2乙は、甲の事前の承諾なく、成果物について前項と同様の利用をしてはならない。
3甲及び乙は、第三者による前二項の不正な利用を知ったときは、相手方に通知し、対応について協議する。
甲=委託者(制作側)、乙=演者。禁止を双方向にしたのが特徴です。AIの利用全般はBGM・素材とAIのページで扱います。
提案書では、肖像権が人格権に由来する権利であることから、削除の請求を全面的に排除する条項は無効とされる余地がある、と説明しました。そのため、社会通念上やむを得ない事由がある場合に協議する、という設計にしています。
契約が終わった後の公開・再編集・広告利用
事務所の書類で最も多く質問されたのが、演者が降板した後、契約が終わった後の扱いです。
ご質問と回答 契約終了後の動画
契約中に撮影したけれど未公開の動画を、契約が終わった後に初めて公開できますか。終了後に再編集したり広告に使ったりできますか。
終了前に公開した成果物に限る書き方では、未公開の動画の公開や再編集は含まれません。そこで、終了後も許諾範囲内で次の4つができる、と明記しました。(1)終了前に公開した成果物の公開の継続、(2)終了前に撮影し終了時に未公開の成果物の初めての公開、(3)終了前に撮影した成果物((2)で初めて公開したものを含む)の切り抜き・再編集・別の尺への転用、(4)同じく新たな広告への利用。
降板した演者から「動画を消してほしい」と言われたら、応じなければいけませんか。
心身の状況の変化や職業上の立場の変更などやむを得ない事由による非公開・削除の申出は、書面又は電磁的方法で対象を特定して行ってもらい、委託者は30日以内に対応の可否を回答する、という手順を置きました。協議が整わないときは、公開を維持できるとしています。
条文例演者用業務仕様書 第◯条(契約終了後の利用)
1甲は、本契約の終了後も、第◯条に定める許諾範囲内において、次の各号に掲げる利用をすることができる。(1)本契約の終了前に公開した成果物の公開の継続、(2)本契約の終了前に撮影し、終了時に公開されていない成果物の公開、(3)本契約の終了前に撮影した成果物(前号により公開したものを含む。)の切り抜き、再編集及び別の尺への転用、(4)前各号の成果物の広告への利用。
2乙は、心身の状況の変化、職業上の立場の変更その他やむを得ない事由があるときは、対象となる成果物を特定して、書面又は電磁的方法により、その非公開又は削除を申し出ることができる。
3甲は、前項の申出を受けた日から30日以内に、対応の可否を乙に回答する。協議が調わないときは、甲は、成果物の公開を維持することができる。
品位の保持も、終了の場面とつながっています。改訂版では、出演者の私生活上の言動で委託者やクライアントの信用が損なわれたときは、解除と出演した成果物の非公開化ができる一方、再撮影の費用は協議とし、出演者に過大な金銭の負担を課さないこと、事前に事情を確認する機会を設けることを定めました。出演者の責めによる現実の損害は、一般の損害賠償で請求できます。
ご質問と回答 公開後の不祥事
動画を公開した後に、演者の不祥事が分かったらどうなりますか。
品位保持の条項は、発覚が公開の前か後かを問わず適用され、解除と出演した成果物の非公開ができます。委託者が状況を早く把握できるよう、演者の側にも、自分の言動で委託者やクライアントの信用を損なうおそれが生じたと知ったときは直ちに報告する義務を新設しました。再撮影の費用そのものを演者に一方的に負担させる条項は、個人に過大な負担を課すものとして優越的地位の濫用と評価されるおそれがあるため置いていませんが、不祥事で現実に生じた損害(クライアントへの賠償、無駄になった広告出稿の費用など)は一般の損害賠償の条項で請求できます。
事務所所属の演者と、本人の同意書
事務所に所属する演者と契約するときは、契約の相手方(事務所)と、実際に出演する人(出演者)を区別して書きます。改訂版では、事務所を「乙」とし、乙に関する規定のうち人格権・肖像権の許諾や私生活上の言動などは出演者に適用し、乙は出演者にこれらの義務を守らせ、出演者の違反は乙の違反とみなす、と定めました。出演料は乙に支払い、事務所と出演者の間の分配には委託者は関与しません。
実演家人格権などは本人に一身専属する権利で、事務所自身が持っていたり行使したりするものではありません。そのため、事務所には「出演者に守らせる義務」と「必要な同意を得ていることの保証」を負わせる構造にしました。この構造なら、本人と直接契約する場合と事務所を通す場合のどちらにも対応できます。
条文例演者用業務仕様書 第◯条(出演者)
1乙が出演者を所属させる事業者である場合、本仕様書における乙に関する定めのうち、実演家人格権の不行使、肖像権等の許諾、品位の保持その他出演者の行為に関する定めは、出演者について適用する。
2乙は、出演者に前項の定めを遵守させるものとし、出演者が前項の定めに違反したときは、乙の違反とみなす。
3乙は、出演者から、本仕様書に定める許諾範囲の利用について必要な同意を得ていることを保証する。
4出演料は乙に支払うものとし、乙と出演者との間の分配について、甲は関与しない。
甲=委託者、乙=事務所。本人と直接契約するときは、乙と出演者が同じ人になるだけで、同じ条がそのまま働きます。
ご質問と回答 事務所との契約
所属事務所がある演者とは、事務所と契約すべきですか。全員そうすべきですか。
所属事務所がある演者は事務所と契約する運用を基本に勧めました。多くの事務所は、所属タレントの出演契約や肖像権等の許諾について専属的な管理契約に基づく窓口の権限を持ち、本人と直接契約すると事務所の専属契約と抵触するおそれがあるためです。ただし、個人で活動する演者もいるので、すべてを事務所との契約に統一することまでは勧めず、所属の有無で契約の主体を使い分ける設計にしました。
事務所と契約すれば、本人の同意は別にいりませんか。
事務所との契約だけで本人の肖像権や実演家人格権を直接処分できるわけではないので、本人が署名した同意書を確認資料として保管するのが安全です。本人が代表を務める法人と契約する場合も、本人個人の肖像権や実演家人格権は法人が処分できるものではなく、実演家の著作隣接権も本人から法人へ譲渡されていなければ法人には帰属しないので、本人個人の署名で同意書を取ります。本人と個人の名義で直接契約するときは、別の同意書は不要です。
本人同意書をそろえる・取り直す場面
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 最低限そろえる資料 | 本人が署名した同意書と、署名が本人のものである記録。未成年なら法定代理人の署名と続柄 |
| 追加で求める資料 | 署名の真正に疑いがあるとき、専属契約や競合関係のおそれがあるときに、マネジメント契約書の写し |
| 同意書を取り直す場面 | 媒体の追加など標準と異なる条件の指定、許諾範囲外の利用、許諾範囲そのものの改訂、未成年だった出演者が成年に達したとき、事務所の移籍 |
本人同意書には、依頼者との協議を踏まえて、出演を通じて知り得た秘密情報・個人情報を目的外に利用せず第三者に開示しない、という本人の秘密保持の一文も加えました。撮影前の企画やクライアントの新商品に触れる演者は、契約の相手方が事務所であっても、本人に直接の約束をしてもらう意味があります。
未成年の出演者と、出演料の支払期日
未成年者が出演するときは、法定代理人の同意書を取ります。深夜の撮影は法定代理人の同意がある場合に限るとしたうえで、同意があっても撮影地の青少年健全育成条例などの制限に従う、と明記しました。同意は必要な条件の一つにすぎないからです。稼働の実態が労働者に当たる場合は、業務仕様書の定めにかかわらず労働関係の法令による、とも書いています。
ヒヤリングで確かめること 出演契約を作るとき
聞くこと
聞く理由
演者は、個人で活動していますか、事務所に所属していますか、本人が代表の法人ですか。
契約の相手方と、同意書を取る相手が変わります。
未成年の演者はいますか。撮影が夜にかかることはありますか。
法定代理人の同意書と、撮影地の条例による制限を確認します。
使う媒体は何ですか。広告に使いますか。クライアントにも使わせますか。
6つの軸のうち、媒体と再許諾の範囲を決めます。
契約が終わった後も、動画を残しますか。未公開の動画を後で公開することはありますか。
終了後の4つの利用を書くかどうかを決めます。
出演料に、肖像や実演の許諾の対価を含めますか。
含めるなら区分しない旨を書き、継続出演のときの改定の協議も置きます。
出演料の支払期日についても、フリーランス法の対象となる取引では注意が必要です。公正取引委員会・厚生労働省のフリーランス法Q&Aは、複数の公演での実演をまとめて委託した例について、全公演分の報酬を最後の公演日から60日以内にまとめて定めると、各公演日から60日を超える分が生じる場合には問題になる、としています(Q&A問47)。出演を複数回まとめて依頼する場合も、出演ごとの日付を意識して支払期日を定めておくのが安全です。外注先への支払期日の考え方はカメラマン・編集者に外注するときのページで扱います。
過去の出演動画に新しい条件を及ぼすとき
ご質問と回答 既存の演者との切替え
既存の演者と新しい契約に切り替えるとき、過去の動画にも新しい許諾範囲(公開の継続・再編集・広告利用)を及ぼせますか。
委託者と受託者(事務所又は本人)の確認書だけでは足りません。実演家の権利や肖像権は出演者本人のものなので、本人の追加の同意が要ります。対象の動画(名称・撮影日・公開媒体・公開日)を特定する別紙を付けた過去動画用の本人同意書を作り、過去の動画についての従前の合意(出演料を含む)は変更しない、同意に伴う対価の有無と額は別に定める、としました。
過去動画用の本人同意書の作り方
- 対象の特定動画の名称・撮影日・公開媒体・公開日を別紙に列挙する。
- 新しい範囲の提示公開の継続、再編集、広告利用など、新しく及ぼす許諾の範囲を示す。
- 従前の合意の維持過去の動画の出演料など、すでに合意した条件は変えないと明記する。
- 対価の扱い追加の同意に伴う対価の有無と額は、別に定める。
- 本人の署名事務所経由でも、本人の署名で取る。
過去の動画は、撮影したときの同意の範囲しか使えないのが原則です。新しい契約を結んだからといって、過去の動画まで自動的に新しい範囲で使えるわけではありません。切替えの時点で対象の動画を一覧にし、本人の同意を取り直すのが確実です。
出演契約で起きがちなこと
よくあるご質問
出演契約書には何を書けばいいですか?
使う媒体、公開期間、地域、切り抜き・再編集・別の尺への転用の可否、他の案件への流用の可否、第三者への再許諾の可否の6点を特定し、契約終了後の扱い(公開の継続・未公開分の公開・再編集・広告利用)と削除の申出への対応手順を書きます。
動画の著作権を譲り受けていれば、出演者の同意はいりませんか?
いります。肖像権・パブリシティ権・実演家の権利は著作権とは別の権利で、著作権の譲渡では移転しません。
事務所所属の演者は、事務所と契約すれば足りますか?
事務所との契約に加えて、本人が署名した同意書を確認資料として保管するのが安全です。本人が代表を務める法人と契約する場合も、本人個人の同意書を取ります。
降板した演者から動画の削除を求められたら、応じなければいけませんか?
契約と同意の内容しだいです。削除の請求を全面的に排除する条項は無効とされる余地があるため、やむを得ない事由がある場合に対象を特定して申し出てもらい、一定期間内(例:30日以内)に回答して協議する手順と、協議が整わないときの扱いを決めておきます。
過去の出演動画にも新しい契約の条件を及ぼせますか?
会社と受託者の確認書だけでは足りず、出演者本人の追加の同意が必要です。対象の動画を特定した別紙付きの過去動画用の同意書を作る方法があります。
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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご質問と回答として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた動画編集・映像制作の業務委託契約書、撮影の業務委託契約書、出演者の業務仕様書と本人同意書、撮影現場の秘密保持誓約書、撮影サービスの利用規約・キャンセルポリシー・重要事項説明書、収益分配型の業務提携契約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。フリーランス法の運用は、公正取引委員会・厚生労働省のQ&A(令和8年8月26日時点)によります。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法Q&A(公正取引委員会) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 特定商取引法ガイド(消費者庁)