このページの要点
- 発注者の素材に映る人の同意は発注者が取り、権利を侵害しないことの保証と、紛争になったときの補償を契約に書く。
- 従業員が出る動画は、退職後の扱い、削除の申出の方法、削除作業の担当と費用を先に決める。
- 広告・SNS・ホームページへの掲載は独立の同意書にし、事業者と提携事業者の掲載を別々に承諾・不承諾で選べるようにする。
- 責任の上限の例外は「知的財産権」だけでなく、肖像権・パブリシティ権・プライバシー権を別に書く。
結論:誰が映るかで、同意を取る人と書類が変わる
肖像権の同意書は、1枚の雛形を使い回すと、肝心の場面で役に立たないことがあります。事務所の書類では、映る人を次の4つに分けて、それぞれ同意を取る主体と書類を決めてきました。
映る人ごとの同意の取り方
| 映る人 | 同意を取る主体 | 書類 |
|---|---|---|
| 発注者の代表者・従業員・来店客 | 発注者 | 発注者の表明保証(受注者との契約)。退職後の扱いも決める |
| 制作側が手配したモデル・演者 | 制作側 | 出演契約・本人同意書(出演契約書のページ) |
| 撮影現場にたまたま映り込んだ人 | 撮影する側 | 撮影範囲の配慮とぼかし・カットの手順(撮影現場のページ) |
| 撮影サービスのお客様・子ども | 撮影事業者 | 利用規約の条項と申込時のチェック、広告などに使うなら独立の掲載同意書 |
このページでは、出演契約以外の場面、つまり発注者の素材に映っている人、店舗のPR動画に出る従業員、撮影サービスのお客様や子ども、提供を受けた家族写真に写っている人の同意を扱います。肖像権は、人がみだりに容ぼう等を撮影・公表されない人格的な利益で、法律の条文ではなく裁判例で認められてきたものです。動画や写真の著作権を誰が持っていても、映っている人の肖像権は別に処理しなければなりません。
発注者の素材に映っている人:保証と補償を書いておく
発注者から渡された映像や写真に映っている人の同意は、映像を持っている発注者でなければ取れません。地域のスポーツ教室から動画制作を受ける個人の基本契約(受注者側)では、発注者が提供する画像・映像・音声・文章・ロゴ・商標・出演者の肖像などの素材について、発注者が適法かつ有効な使用の権限を持ち、第三者の著作権・著作者人格権・商標権・肖像権・パブリシティ権その他の権利を侵害しないことを表明・保証してもらう条を置きました。提供素材について第三者から請求や訴訟が起きたときは、発注者が自己の責任と費用で解決し、受注者に生じた損害と費用(合理的な弁護士費用を含む)を補償します。
この条には、受注者の負担の範囲をはっきりさせる項も入れています。提供素材が原因で成果物の利用の停止や修正が必要になったときの修正・再制作は追加作業として発注者の費用で行うこと、そして受注者は提供素材の内容の真実性・適法性・完全性を独自に調べる義務を負わないこと、の2つです。受け取った素材に映る全員の同意を受注者が確かめることはできないので、確認の責任がどちらにあるかを先に決めておきます。
条文例基本契約 第◯条(発注者提供素材)
1甲は、乙に提供する画像、映像、音声、文章、ロゴ、商標、出演者の肖像その他の素材(以下「提供素材」という。)について、適法かつ有効な使用の権限を有し、第三者の著作権、著作者人格権、商標権、肖像権、パブリシティ権その他の権利を侵害しないことを表明し、保証する。
2提供素材に関し第三者から請求、異議の申立て、訴訟その他の紛争が生じたときは、甲は、自己の責任と費用においてこれを解決し、乙に生じた損害及び費用(合理的な弁護士費用を含む。)を補償する。
3提供素材に起因して成果物の利用の停止又は修正が必要となったときは、その修正又は再制作は追加作業とし、その費用は甲が負担する。
4乙は、提供素材の内容の真実性、適法性又は完全性について、独自に調査する義務を負わない。
甲=発注者、乙=受注者。受注者側の基本契約の定めを、条文例の形に整理したものです。
委託する側の契約でも、補償の書き方は重要です。映像制作会社のフリーランス向け契約(委託者側)のレビューでは、外注先の責めによる第三者からの申立てについて「自己の費用と責任において合理的に必要な対応を行う」とだけ書かれ、制作会社が自ら弁護士を立てて防御した費用を外注先に請求できるかがはっきりしない点を指摘しました。第三者が請求してくるのは、外注先よりも、制作物を世に出している制作会社やクライアントであることが多いからです。「甲及び甲のクライアントに生じた損害、費用(合理的な範囲の弁護士費用を含む。)並びに和解金を補償する」と、補償の対象を書き出すよう勧めました。
従業員が出るSNS動画と、退職後の削除
SNS運用支援(企画・撮影・編集・投稿)の申込書と規約のレビューでは、ショート動画には顧客の代表者・従業員・来店客、モデル・インフルエンサーが出演することが多い、という実態から次のように指摘しました。顧客が手配した出演者は「顧客が提供する素材の肖像について顧客が権利・許諾を有する」という保証で手当てされていましたが、運用支援会社が手配したモデル、現場の映り込み、出演者が退職・契約終了した後の削除の扱いは定められていませんでした。従業員が出演した動画を退職後も公開し続けるかどうかは、SNS運用で実際に紛争になりやすい場面です。削除・非公開化だけの作業の扱いや、その判断と作業を誰がするかも定めがありませんでした。
ヒヤリングで確かめること 従業員・来店客が出る動画を作るとき
聞くこと
聞く理由
出演する従業員や来店客から、同意を誰が、どの書面で取りますか。
発注者が取るなら、受注者との契約で発注者の保証として書きます。
同意の範囲は、自社のSNSだけですか。広告配信や採用ページにも使いますか。
媒体が広がるなら、同意書にもその媒体を書いておきます。
従業員が退職したら、出演した動画はどうしますか。
公開を続けるのか、一定の申出があれば非公開にするのかを先に決めます。
削除や非公開化の作業は、誰がして、費用は誰が負担しますか。
運用を外注している場合、削除だけの作業が業務に含まれるかで争いになります。
改善の方向としては、手配した出演者と映り込みについて同意を取る主体、同意の範囲、退職・契約終了後の扱いと削除作業の費用負担を定めることを示しました。出演契約のページで紹介した「やむを得ない事由による削除の申出には30日以内に回答し協議する」という手順は、従業員の同意書にも応用できます。削除の請求を全面的に排除する書き方は、人格権に由来する権利であることから無効とされる余地があるので避けます。
お客様・子どもの写真の掲載同意
七五三の出張ヘアメイク・着付け・撮影を営む事業者への書類作成のご案内では、掲載の同意について次のように整理しました。
- お渡し用の撮影にとどまるなら、利用規約の中の条項と、申込時のチェックボックスで対応できる。
- 広告・SNS・ホームページへの掲載まで行うなら、独立の同意書を勧める。
- 提携スタジオや外注カメラマンなど外部への提供、外部の媒体での使用も、独立の同意書を勧める。
- 子どもの写真は保護者が同意の主体。掲載の目的・媒体・期間・掲載停止の申出方法を書く。
- 申込フォームで「申込者(保護者)」と「サービス利用者(子ども)」を分けて入力させる。
屋外ロケを含むウェディング撮影(消費者向け)の重要事項説明書兼同意書では、事業者による掲載と、提携事業者(衣装店など)による掲載を、それぞれ「承諾する・承諾しない」で選んでもらう方式を採っていました。レビューでは、この方式を実務的に優秀と評価したうえで、著作権の所在(撮影者側)と被写体の肖像権・プライバシーは別の問題であり、どの媒体(フィード・リール・ホームページ・パンフレット・広告配信の素材)で、どの範囲・期間・態様(トリミング・レタッチ・二次編集・他の媒体への転用)で使えるかが特定されていないこと、提携事業者は別法人による第三者の利用なので、利用の主体、独立した判断か、目的は実績紹介か広告宣伝一般か、責任の主体、承諾の撤回・削除依頼への対応を明記すべきことを指摘しました。
条文例重要事項説明書兼同意書 第◯項(写真・動画の掲載)
1当社は、お客様が承諾した場合に限り、成果物を、当社のSNS、当社のウェブサイト、SNS広告・Web広告、パンフレット等の販促物及び実績紹介に掲載することができます。掲載の期間は定めず、明るさや色味の調整、トリミング等の軽微な加工を行うことがあります。
2提携事業者による掲載は、当社及びお客様の双方の承諾がある場合に限ります。提携事業者は、独立した事業主体として自己の責任で成果物を利用し、その利用に関する責任は提携事業者が負います。
3お客様から削除の申出があったときは、当社は、合理的な範囲で削除又は削除の依頼に対応します。ただし、第三者による転載、配布済みの印刷物その他回収又は削除が困難なものを除きます。
4掲載を承諾するかどうかによって、基本サービスの内容に差を設けることはありません。
当社=撮影事業者。承諾・不承諾は、当社による掲載と提携事業者による掲載を別々に選べるようにします。
第4項は、利用規約にも同じ内容を置きました。承諾しないと撮影を受けられない、あるいは割引がなくなる、という形にすると、同意が本当に自由に与えられたものか疑われるからです。消費者向けの規約全体の作り方は撮影サービスの利用規約のページで扱います。
お客様の情報を外注のカメラマンやスタッフに渡す場面についても、七五三の出張撮影のご案内で整理しました。利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託することに伴って提供する場合、提供を受ける者は第三者に当たらないとされているので(個人情報保護法27条5項1号)、必要な範囲で提供し、委託先を適切に監督していれば(同法25条)、外注先への提供に別途の同意は要りません。ただし、プライバシーポリシーには、委託先へ提供する場合がある旨を書いておきます。これに対して、撮影した写真を提携スタジオの広告に使ってもらうような場面は、委託ではなく提携先自身の利用なので、先の掲載同意書で承諾を取る対象になります。
ヒヤリングで確かめること お客様・子どもの写真を扱うとき
聞くこと
聞く理由
撮った写真は、お渡し用だけですか。自社のSNSや広告、ホームページにも載せますか。
お渡し用だけなら規約の条項とチェックボックスで足ります。掲載するなら独立の同意書にします。
提携スタジオや衣装店など、ほかの事業者も写真を使いますか。
提携先の利用は、事業者による掲載とは別に承諾・不承諾を選べるようにし、利用の主体と責任を書きます。
申込者と、撮影される人(子ども)は別ですか。
フォームで申込者(保護者)と利用者(子ども)を分けて入力してもらい、保護者を同意の主体にします。
外注のカメラマンやスタッフに、お客様の情報を渡しますか。
委託としての提供なら、プライバシーポリシーへの記載と委託先の監督で対応します。
掲載をやめてほしいと言われたら、どこまで対応しますか。
削除の申出の方法と、回収が難しい印刷物などを除くことを書きます。
提供を受けた写真に写っている人と、撮った人
家族から写真の提供を受けて冊子を制作する事業者の確認書のレビューでは、家族の同意だけでは処理したことにならない場面がある、と指摘しました。提供された写真の撮影者が家族以外(プロのカメラマンや友人)なら、その撮影者の著作権が残ります。写真に家族以外の人が写っていれば、その人の肖像権・プライバシーも別に問題になります。
ご質問と回答 確認書で足りるか
案内書(確認書)にチェックをもらえば、契約として十分ですか。
契約は口頭でも成立しますが、トラブルが起きたときに権利を立証する文書としては、依頼調の案内書では足りません。案内書はそのまま活かし、当事者の特定、利用許諾の範囲・期間・撤回、中止したときのデータの扱い、第三者(撮影者・写り込んだ人)の権利についての表明保証、個人情報の利用目的、準拠法と管轄を定めた契約書を別に作る二層構造を勧めました。
提供写真に関わる権利の持ち主
制作する事業者は、3者それぞれの権利が処理されているかを確認する必要があります。家族に表明保証してもらう項目は、この3者に対応させます。
同じレビューでは、確認書の個人情報の条が利用目的を「制作と制作に関する連絡」に限っている一方で、完成した冊子をSNS・ホームページ・パンフレット・広告で紹介する条があり、書面の中で矛盾している点も指摘しました。個人情報を取り扱う事業者は、利用の目的をできる限り特定しなければならず(個人情報保護法17条1項)、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはなりません(同法18条1項)。写真や氏名、家族のエピソードを広報に使うなら、その利用を利用目的として書き、掲載の同意とそろえておく必要があります。掲載の媒体を「その他必要な媒体」のような包括的な言葉で済ませず具体的に挙げ、期間と削除の申出への対応を書くことも勧めています。
責任の上限の例外から肖像権を書き漏らさない
芸能人を起用するショート動画や番組を作る映像制作会社のフリーランス向け契約(委託者側)のレビューでは、権利侵害の表明保証では「著作権、著作者人格権、商標権、肖像権、プライバシー権その他の権利」と列挙しながら、損害賠償の上限の例外は「知的財産権」としか書いていない点を指摘しました。同じ契約書の中で用語が食い違うと、「肖像権の侵害は例外に含める意思がなかった」と反対に解釈されるおそれがあります。芸能人の案件で最も起きる事故(通行人が特定できる映像の残存、出演者の許諾範囲を超えた媒体への書き出し)が、責任の上限の内側に落ちる余地が生じます。
知的財産基本法は「知的財産権」を、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利と定義しています(知的財産基本法2条2項)。肖像権やパブリシティ権がこれに含まれるかは解釈の問題になるので、含まれるかどうかで争いにならないよう、肖像権・パブリシティ権・プライバシー権を別に書いておくのが安全です。
事務所の改訂例 責任上限の例外の書き方
責任上限の例外
理由表明保証と上限の例外で言葉がずれていると、肖像権の侵害が上限の内側に入ると主張される余地があります。
同意書が残っていないと、何年後に困るか
出演者の側から依頼を受けて、過去に制作・販売された映像作品について、肖像・氏名・芸名などの今後の利用の停止と削除への協力を取り決める合意書を作成したことがあります。制作・出演・販売・権利の帰属についての契約書や出演の同意書が確認できず、著作権・著作隣接権の帰属も明確でなかったため、合意書では知的財産権の帰属を確定・変更しないことを明記したうえで、人格的な利益の保護の観点から、利用の停止・削除への対応・第三者への対応を定めました。販売・掲載・配信・編集・加工などと並べて、AIの学習への利用や生成AIでの利用も新たな利用の禁止の対象に書いています。
この案件から分かるのは、出演や撮影の同意を書面で残していないと、後になって誰が何を許諾したのかを誰も証明できない、ということです。同意書は、映る人を守るための書類であると同時に、制作する側にとっては将来も公開を続けるための根拠になります。同意を取った日、範囲、署名した人を記録し、契約書や発注書と一緒に保管しておきます。
同意の記録の残し方(事務所の書類から)
| 場面 | 残す記録 |
|---|---|
| Webの申込みで規約と同意を取る | 送信ボタンの直前に同意のチェックボックスを置き、チェックがなければ送信できない仕組みにする。規約の全文又はリンクを表示し、いつ・誰が・どの版に同意したかを保存する |
| 演者の本人同意書 | 本人の署名と、署名が本人のものである記録。未成年なら法定代理人の署名と続柄 |
| 過去の動画に新しい範囲を及ぼす | 対象の動画(名称・撮影日・公開媒体・公開日)を特定した別紙と、本人の署名 |
| 撮影サービスの掲載同意 | 事業者による掲載と提携事業者による掲載の承諾・不承諾を別々に記録し、自署を取る |
書面の保管は、出演者や被写体から見れば「何に同意したか」の証拠であり、制作する側から見れば公開を続けられる根拠です。
肖像権の同意で起きがちなこと
よくあるご質問
肖像権の同意書には何を書けばいいですか?
掲載する媒体(SNS、ウェブサイト、広告、販促物など)、期間、加工の範囲、第三者(提携事業者など)による利用の有無、削除の申出への対応、承諾しなくても基本サービスに差を設けないことを書きます。子どもの写真なら、保護者が同意の主体です。
お渡し用の撮影でも、掲載の同意書は別に必要ですか?
お渡し用の撮影にとどまるなら、利用規約の中の条項と申込時のチェックボックスで対応できます。広告・SNS・ホームページへの掲載や、外部への提供まで行うなら、独立の同意書を勧めます。
退職した従業員から、出演した動画の削除を求められました。
同意の内容しだいですが、削除の請求を全面的に排除する書き方は無効とされる余地があります。退職後の扱い、削除の申出の方法と回答の期限、削除作業を誰がして費用を誰が負担するかを、先に決めておくことが大切です。
発注者から渡された素材に映っている人の同意は、誰が取るのですか?
発注者が取るのが基本です。受注者との契約で、提供素材が肖像権・パブリシティ権その他の権利を侵害しないことを発注者に保証してもらい、紛争になったときの解決と費用(弁護士費用を含む)の負担も決めておきます。
家族から提供された写真なら、家族の同意だけで使えますか?
足りない場合があります。撮影者が家族以外ならその撮影者の著作権が残り、家族以外の人が写っていればその人の肖像権・プライバシーも問題になります。家族に、これらの権利が処理されていることを表明保証してもらう契約書を作ります。
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