このページの要点
- 撮影に必要な許可の取得者を、個別発注書で案件ごとに指定し、撮影担当者は許可のない場所・方法で撮影しない。
- 著作物の映り込みには著作権法30条の2があるが、人の肖像には適用されない。ぼかし・カットと抗議の報告の手順を書く。
- 業務外の撮影の禁止、業務上撮影したデータの私的な保存の禁止、共有リンクの転送の禁止を明記する。
- 見学者には、記録・投稿・持ち出しの禁止と存続期間を定めた誓約書を取る。
結論:許可は誰が取り、取れなかったら誰の責任か、許可のない撮影はしない
ロケでの撮影には、施設・店舗・私有地の管理者の許可、道路で撮影する場合の道路使用許可、ドローンを飛ばす場合の許可・承認など、撮影そのものに許可が要る場面があります。動画撮影の契約書で決めるべきなのは、次の3点です。
- 撮影に必要な許可を、誰が取るか。
- 許可が取れなかったとき、撮影が止められたときに、誰の責任とし、費用を誰が負担するか。
- 撮影する人が、許可のない場所や方法で撮影しないこと。
あわせて、撮影現場に特有の論点として、看板や音楽、通行人の映り込みの扱い、撮影の環境の要件、そして現場で撮った写真や動画をめぐる秘密保持があります。秘密保持は、発注者から提供された情報を守るだけでは足りません。受注者やスタッフ、見学者が「自分で撮った」写真・動画をどう扱うかが中心になります。ドローンの許可と機材の扱いはドローン撮影・機材・保険のページで扱います。
撮影許可と道路使用許可:誰が取るかを案件ごとに決める
道路交通法は、道路において祭礼行事をし、又はロケーションをするなど一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為などで、公安委員会がその土地の道路又は交通の状況により必要と認めて定めたものをしようとする者は、所轄警察署長の許可を受けなければならない、としています(道路交通法77条1項4号)。どの行為が許可の対象になるかは公安委員会の定めによるので、道路での撮影はすべて許可が要る、とまでは言えませんが、撮影の規模や方法によっては許可が必要になる場合があります。
撮影に関わる許可と、契約で決めること
| 許可 | 根拠・相手 | 契約で決めること |
|---|---|---|
| 施設・店舗・私有地の使用の許可 | 施設の管理者、土地や建物の所有者(契約や利用規則による) | 誰が取るか。取れなかったとき、撮影を止められたときのやり直しの費用 |
| 道路使用許可 | 所轄警察署長(道路交通法77条1項4号。対象は公安委員会の定めによる) | 許可の要否の確認と申請を誰がするか。許可の条件に従うこと |
| ドローンの飛行の許可・承認 | 国土交通大臣(航空法132条の85・132条の86)など | ドローンの使用を事前の承諾制にするか。取得者と、取れなかったときの扱い |
ドローンについてはドローン撮影・機材・保険のページで詳しく扱います。
SNS運用代行会社が撮影担当者などに外注する契約一式を整えた案件では、ヒヤリングシートで「撮影許可(施設管理者の許可、道路使用許可等)は誰が取得しているか」を質問しました。シートの解説では、撮影同行者に取得の責任を負わせると、許可がないまま撮影が強行される事態を招くので、会社又はディレクターが取得する建付けを勧める、と案内しています。
ヒヤリングで確かめること 撮影許可について
聞くこと
聞く理由
レンタルスタジオの利用条件は、誰が確認していますか。
委託者かディレクターが確認するのか、撮影担当者に頼むこともあるのかで、契約上の取得者の決め方が変わります。
クライアントの店舗・施設で撮影するとき、撮影の可否を誰が確認しますか。
クライアントにも確認する運用なら、施設の管理者の許可を、契約上誰が取るかを明確にします。
屋外で別に許可が必要な撮影は、誰が担当しますか。
担当が委託者・ディレクター・撮影担当者のいずれにもなり得て固定できないなら、案件ごとに指定する形にします。
事務所の改訂例 撮影許可の取得者
撮影許可の取得
理由案件によって担当が変わる実態に合わせつつ、誰も取っていない、という状態を個別発注書の欄で防ぎます。
消費者を相手にするウェディングフォトの利用規約では、撮影場所が私有地・公共施設その他許可が必要な場所である場合は、利用者が自己の責任で使用の許諾・申請・許可の取得・使用料の支払を行い、それを怠った結果撮影できなくても事業者は責任を負わない、と定め、禁止事項に「撮影許可を得ていない施設・場所での撮影の強行」を入れていました。ただ、消費者はどの場所に許可が要るかを自分で判断できないことが多いので、予約の時に撮影地を確認し、許可の要否と取得する人を個別の条件として書いておく運用をあわせて取るのが現実的です。
Instagramの運用支援と現地での撮影を受けるコンサル契約のレビュー(依頼者=受注者)では、レビュー対象の原案に、発注者が顧客・撮影対象者・撮影場所の所有者や管理者などとの調整を行い、SNSへの掲載・広告利用など実際に予定する目的・媒体・範囲に応じて必要な許諾を事前に取得し、その範囲と条件を受注者に共有する、受注者は共有された範囲と条件に従って業務を行う、という条項がありました。受注者の免責の根拠として機能する良い設計と評価したうえで、発注者がこの義務を怠って受注者が第三者から請求を受けた場合に、受注者が発注者に求償できる額が責任の上限で頭打ちになる点を指摘し、発注者の許諾取得義務の違反は上限の対象から外すのが合理的だと伝えました。
映り込み:著作物と人では扱いが違う
映り込みには、看板・音楽・キャラクターなど著作物の映り込みと、通行人など人の映り込みがあります。著作権法は、写真の撮影や録画などに付随して対象となる事物や音に係る著作物で、作成されるもののうち軽微な構成部分となるものは、正当な範囲内で利用できる、としています(著作権法30条の2第1項。著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除きます)。しかし、これは著作権の規定で、人の肖像権には直接適用されません。
条文例撮影担当者用業務仕様書 第◯条(映り込み)
1乙は、屋外又は公共の場所での撮影において通行人その他の第三者が映り込んだときは、甲の指示に従い、公開の際に当該第三者が特定されないよう、撮影範囲の配慮、カット、ぼかし、モザイクその他の処理に協力する。
2乙は、撮影の際に第三者から抗議を受けたときは、直ちに甲に報告する。
SNS運用代行会社の改訂版の考え方を条文例にしたものです。撮影の段階の配慮と、編集の段階の処理をつなげています。
撮影だけを受ける業務委託契約の例では、成果物に第三者の肖像・商標などが含まれるときは撮影者が権利処理をする、と定められていました。このような条項に署名するなら、現場で映り込みを避ける段取りに時間がかかることを料金と工程に織り込んでおく必要があります。映り込んだ人の同意の考え方は肖像権の同意書のページで扱います。
芸能人を起用する映像制作会社の契約のレビューでは、こうした現場で最も起きる事故の一つとして、通行人が特定できる映像が残ったまま公開されることを挙げました。撮影担当と編集担当が別の人である場合、撮影担当は「映り込んだことを知っていた」、編集担当は「知らされていなかった」ということが起こります。撮影時に映り込みや抗議があったことを、ラッシュの納品の際に編集担当とディレクターに伝える運用を、撮影担当者の業務仕様書の報告の義務とつなげておくと、処理の漏れを防げます。
撮影の環境と、現場での作業の範囲を書いておく
撮影だけを受ける契約では、技術的な判断・実施の手法・機材の選定は受注者が専門的な裁量で行い、撮影場所は発注者が特に指定しない限り受注者の合理的な判断による、発注者が撮影の環境について特別の要件(照明、音響、安全性など)を必要とする場合は事前に書面で通知する、と定めていました。受注者が持ち込む機材の範囲では撮れない環境(暗い会場、騒音、危険な場所)を後から求められたときの防御になります。
現場の作業を業務として書いた例
| 契約 | 書き方 |
|---|---|
| 受注者側の動画制作契約 | 業務の例示に「撮影業務(機材選定、撮影設営、撮影実施を含む。)」を入れた |
| 撮影担当者用の業務仕様書(委託者側) | 「撮影機材の準備及び片付け」「照明及びマイクの設置」を列挙し、実際に依頼する項目を個別発注書で指定する |
| 撮影だけの業務委託契約 | 撮影の環境に特別の要件があるときは、発注者が事前に書面で通知する |
機材の運搬・設営・撤収の時間が報酬に含まれるかの争いを避けるためにも、作業として書いておきます。料金の考え方は撮影の料金とキャンセル料のページで扱います。
現場で自分が撮った写真・動画と、直接取引
映像制作会社のフリーランス向け契約(委託者側)のレビューでは、管理の義務の対象が「甲又は甲の関係者から提供された情報、素材及びデータ」とされていた点を指摘しました。楽屋の様子、リハーサルの風景、出演者との記念撮影、機材のセッティングの風景を、受注者が自分のスマートフォンで撮った場合、文言の上では「提供された」ものではありません。芸能人を起用する現場では、これが最大の実務上のリスクです。
- 業務外の撮影・録音・録画を原則として禁止する(個別の業務の遂行に必要な範囲を超えて撮影しない)。
- 業務上撮影したデータの帰属を定め、私的な保存を禁止する。
- 共有リンクの転送は「複製」にも「保存」にも当たらないので、明文で禁止する。
- クライアント・出演者との直接取引の禁止は、秘密保持の義務では止められないので別に定める。対象は契約で知り得た相手に限り、従前から取引していた相手を除き、期間を区切る。
SNS運用代行会社の委託者側の基本契約では、有効期間中と終了後6か月間、委託者の事前の承諾なく、契約に基づいて知った委託者のクライアントに直接営業し又は業務委託契約の締結を勧誘すること、委託者の他の受託者に委託者との契約の終了・変更を勧誘すること、をしないと定めました。受託者が他社の仕事を受けること自体は制限していません。直接の営業と引抜きに絞るのが、個人の受託者との契約として合理的な線です。
映像制作会社の契約のレビューでは、受注者の履行補助者や同居の家族の扱いも検討事項に挙げました。個人のカメラマンや編集者は、家族や知人に機材運びや作業を手伝ってもらうことがあります。現場に入る人、データに触れる人が受注者本人だけでない場合は、受注者がその人たちにも同じ義務を守らせ、その人たちの行為について責任を負う、と書いておかないと、秘密保持や私的撮影の禁止が本人にしか及ばない、という穴が残ります。
ヒヤリングで確かめること 撮影の前に決めておく現場のルール
聞くこと
聞く理由
撮影場所は、スタジオ、クライアントの施設、屋外のどれですか。
場所の種類ごとに、許可を取る人と確認する事項が変わります。
通行人や他の客が映り込むおそれのある撮影ですか。
撮影の段階の配慮と、編集の段階のぼかし・カットを誰が担当するかを決めます。
現場で私物のスマートフォンによる撮影を認めますか。
業務外の撮影を原則として禁止し、例外を認めるなら範囲を決めます。
見学者や、クライアントの担当者が現場に来ますか。
見学者には誓約書を取り、外注スタッフが相談できる窓口を決めておきます。
受注者の家族や手伝いの人が現場に入ることはありますか。
履行補助者にも義務を守らせる条を置くかを決めます。
見学者の秘密保持誓約書
ショートドラマの制作会社が、撮影現場の見学者から取る秘密保持誓約書を作成・レビューしたことがあります。秘密情報は、作品のタイトル・企画・脚本、出演者の氏名・所属事務所・配役・衣装・ヘアメイク、撮影の日程・場所・演出・機材・照明音響・編集の手法、登場する商品・企業・スポンサー・タイアップの情報、という類型で定義しました。
事務所の改訂例 見学者向けの秘密保持誓約書
秘密情報の定義
理由「一切の情報」は広すぎて、無効を主張されるおそれがあります。
記録とSNS
理由見学者の事故で最も多いのは、現場の写真の投稿です。記録の禁止を独立して書きます。
存続期間と終了時
理由「公式に完全公開」の基準を明確にし、終わりを決めておくためです。
見学当日は署名欄のある最終ページだけを提出してもらう運用だったため、事前にメールで送った全文に同意したものとみなす旨の注記を入れました。誓約書の全文を受け取っていないと言われないよう、送付の記録を残しておくことが前提です。
条文例見学者の秘密保持誓約書 第◯条(記録行為等の禁止)
1私は、撮影現場において、撮影、録音その他一切の記録行為を行いません。
2私は、撮影現場で見聞きした事項について、SNSその他のインターネット上への投稿を行いません。
3私は、台本、撮影スケジュール、衣装表その他の資料を複製せず、撮影現場の外に持ち出しません。
4前三項の義務は、私が関与し、又は私の管理下にある者の行為によって前三項に反する結果が生じた場合にも及ぶものとします。
見学者向けの完成版の考え方を、条文例の形に整理したものです。目的外の利用の禁止と存続期間・返還と消去は、別の条に置きます。
レビューでは、損害賠償の範囲の合理性も確認事項にしました。見学者は個人であることが多く、違反の重さに比べて過大な賠償の予定を置くと、かえって条項の効力を争われるおそれがあります。誓約書の重心は、賠償額よりも、記録の禁止・投稿の禁止・持ち出しの禁止という「してはいけない行為」の特定と、違反したときの削除・破棄の手順に置くのが実務的です。
現場のハラスメントと、撮影対象者の情報
フリーランス法は、特定業務委託事業者に対し、業務委託に関して行われる性的な言動、妊娠・出産に関する言動、取引上の優越的な関係を背景とした言動によってフリーランスの就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じることを求めています(同法14条1項)。この義務には、5条のような期間の要件がありません。映像制作会社の契約のレビューでは、単発の1日の撮影の委託でも適用されること、撮影現場ではクライアントの担当者・出演者・他の外注先との間で問題が生じることもあり、「うちの社員がやったことではない」という理由で対応しないのは体制の整備として不十分と評価されるおそれがあることを指摘しました。
撮影対象者の情報も、現場の論点です。先のInstagram運用支援のレビューでは、撮影対象者(発注者の顧客)の氏名・住所・間取り・家族構成・撮影データを扱う業務なので、受注者が再委託先を使うときは、その名称と業務内容を事前に発注者へ通知する仕組みを提案しました。承諾制にすると外部スタッフの機動的な起用が損なわれるため、「通知」にとどめています。外注先との契約全体はカメラマン・編集者に外注するときのページで扱います。
撮影現場で起きがちなこと
よくあるご質問
ロケの撮影許可は誰が取るべきですか?
契約で案件ごとに指定するのが確実です。撮影担当者だけに負わせると許可がないまま撮影が進む危険があるため、委託者又はディレクターが取る建付けを基本にし、個別発注書で取得する人を明記します。撮影担当者は許可のない場所・方法で撮影しない、と定めます。
道路で撮影するときは必ず許可が必要ですか?
道路においてロケーションをするなど一般交通に著しい影響を及ぼすような道路の使用で、公安委員会が定めたものは、所轄警察署長の許可が必要です(道路交通法77条1項4号)。該当するかは撮影の規模・方法と地域の定めによるので、事前に確認します。
通行人が映り込んだ動画は公開できませんか?
著作物の映り込みには著作権法30条の2がありますが、人の肖像には適用されません。特定できる映り込みはカットやぼかしで処理する手順を契約に書き、撮影時に抗議を受けたら報告する流れを決めておきます。
外注スタッフが現場で撮った写真をSNSに載せるのを止められますか?
秘密保持の条項が「提供された情報」だけを対象にしていると止めにくいので、業務外の撮影・録音・録画の禁止、業務上撮影したデータの私的な保存の禁止、共有リンクの転送の禁止を明記します。
撮影現場の見学者にも誓約書は必要ですか?
公開前の作品・出演者・スポンサーの情報に触れるなら有効です。撮影・録音の禁止、SNSへの投稿の禁止、資料の持ち出しの禁止、存続期間(公開日から一定期間など)、違反したときの削除・破棄を定めます。
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