このページの要点
- 受注者が選ぶ素材は商用利用が許諾されたものに限り、使用素材の出所と利用条件を示せるようにする。
- 使用素材の申告と一覧の提出、指定ライブラリ以外の素材の事前承諾、SNSの音源は事業者アカウントでの利用可否を確認。
- AIツールは全面禁止にせず、使ってよいサービスの一覧と、学習に使われるサービスへの入力の禁止で管理する。
- AI音声など使ってよい用途を契約に書き、どの工程でAIを使ったかを申告できるようにする。
結論:素材とAIは「誰が選んだか」で責任を分け、使い方を契約に書く
生成AIの一般論(入力・出力・著作物性・依拠性)は、Web制作やアプリの規約でも共通の論点です。このページでは、動画の編集に固有の次の4つの場面に絞ります。
- 受注者が選んだ素材(BGM・効果音・フォント・ストック映像・テンプレート):素材ごとに利用許諾の条件があり、個人利用に限る、帰属の表示が必要、SNS投稿が制限される、事業者のアカウントでは使えない、などが混在する。完成した動画を使う媒体がライセンスの範囲に入っているかを、誰が確かめるか。
- プラットフォームに内蔵された音源:SNSアプリの音楽ライブラリは、個人アカウント向けと事業者アカウント向けで使える楽曲の範囲が異なることが一般的。
- AIツールへの素材の入力:文字起こし・ノイズ除去・音声の分離などのクラウドのAIに、発注者の未公開の素材を送ることが、秘密保持の違反と言われないか。
- AIによる人物の顔・声の生成・合成・置換(AI音声のナレーション、顔の差替え、声のクローン):出演者の同意の範囲を超えるおそれ。
素材の権利は、成果物の著作権の移転とも結び付いています。成果物に第三者の素材やAI生成物が含まれるときはその権利は権利者に残る、という考え方は動画制作の契約書と著作権のページで紹介しました。
受注者が選ぶ素材のライセンス:商用利用の確認と使用素材の申告
著作物の利用の許諾を得た者は、許諾に係る利用方法及び条件の範囲内でだけ、その著作物を利用できます(著作権法63条2項)。BGMや効果音のライセンスが「個人利用」や「SNS投稿まで」に限られていれば、その動画を広告配信に使うことは許諾の範囲を超えます。
SNS運用代行会社の外注契約(委託者側)の整備方針の提案書では、素材のライセンス違反が編集者の事故で最も多い、と説明しました。編集者が無償の素材として入手したものが実は商用利用不可だった、という事案は珍しくありません。対策として、使用した素材の申告の義務とライセンスの条件を満たしていることの保証、納品時の使用素材の一覧の提出、指定のライブラリ以外の素材の事前の承諾を置くことを勧めました。
条文例動画編集者用業務仕様書 第◯条(素材)
1乙が自ら用意する素材は、商用利用が許諾されたものに限る。
2甲が特定の素材ライブラリを指定したときは、乙はこれに従う。
3乙は、甲から求められたときは、使用した素材の出所及び利用許諾の条件を示す資料を提出する。
4乙が選定した素材及び乙が生成AIにより生成したものについては、乙が確認の義務を負い、第一次的な責任を負う。甲又はクライアントが提供し、又は指定した素材については、甲が第一次的な確認の責任を負う。
委託者側の改訂版の考え方です。依頼者との協議を踏まえ、「商用利用は許諾されているが著作権は譲渡できない素材」でも、成果物と同じ範囲・態様で委託者が使える状態を確保すれば足り、素材については利用許諾の取得で足りる、という注記も提案しました。
ヒヤリングで確かめること 素材の扱いを決めるとき
聞くこと
聞く理由
BGM・効果音・フォントは、受注者が選びますか、発注者が指定しますか。
選んだ側が第一次的な確認の責任を負う、という分け方の前提になります。
完成した動画は、どこで使いますか(自社のチャンネル、広告配信、店頭、展示会)。
素材のライセンスが用途に合っているかを確かめます。後で用途が広がるときの責任も決めます。
使用した素材の一覧を、納品時に渡しますか。
ライセンスの証明が必要になったときに、すぐ出せるようにします。
指定の素材ライブラリはありますか。
指定があるなら、それ以外の素材は事前の承諾制にします。
契約が終わった後も、動画を公開し続けますか。広告に転用することはありますか。
素材のライセンスが、契約終了後の公開や広告への転用まで認めているかを確かめます。
運用まで受ける契約では、素材の権利の範囲を規約で先に示しておく形もあります。SNS運用支援(企画・撮影・編集・投稿)の規約のレビューでは、プラットフォームが提供する素材を著作権の移転の対象から除き、運用支援会社が調達する第三者の素材は、合意した利用に必要な許諾を運用支援会社が取得して利用の制限を事前に顧客に示す、という条を確認しました。そのうえで、運用支援会社が選んだ有料の音源などは許諾の取得の責任を負うことになるので、許諾の範囲を超える利用、たとえば契約終了後の継続的な公開や広告への転用をどう扱うかを明確にしておくよう指摘しています。同じ規約の、テンプレートなどの既存の素材を移転の対象から除きつつ、成果物の利用に必要な範囲で期間の制限なく非独占的に利用を許諾する条は、受注者のノウハウの保護と顧客の利用の確保を両立する書き方と評価しました。
SNSに内蔵された音源と、アカウントへの措置
SNS運用支援の申込書と規約のレビューでは、SNSのプラットフォームが提供する楽曲・効果音には、使えるアカウントの種類や商用利用の範囲に制限があるものがある、と指摘しました。規約は「当社が調達する第三者素材」の許諾の取得を運用支援会社の責任としていましたが、プラットフォームに内蔵された音源がそれに含まれるかは明らかでなく、利用の条件の違反による投稿の削除・アカウントの制限の責任が曖昧でした。音源は各プラットフォームの商用利用ができるものに限る、などの選定の方針、内蔵の音源の位置づけ、顧客が指定した音源の責任は顧客、を定めるよう勧めています。運用支援会社が選んだ音源や投稿の方法がきっかけでアカウントが制限された場合は、運用支援会社に帰責事由があるとされる可能性が高いので、通知・異議申立ての支援などの対応の手順と責任の範囲を決めておくことも挙げました。
アカウントへの措置という点では、SNS運用代行会社の委託者側の基本契約で、受託者は委託者の事前の承諾なく、予約投稿以外の自動化ツール(フォロー・いいねの自動化、DMの一斉送信など)を使わない、プラットフォームの規約の違反でアカウントの停止・投稿の削除などを受けても、受託者の故意又は過失によらないものは責任を負わず、故意又は過失による場合は損害を賠償する、と定めました。音源の選び方と同じく、アカウントの事故を招く行為を先に特定し、責任の線を過失で引いておく考え方です。YouTubeチャンネルの停止や収益化の停止のリスクを誰が負うかは、YouTubeチャンネル運営代行と収益分配のページで扱います。
音源の種類と、契約で決めること
| 音源 | 注意点 | 契約での扱い |
|---|---|---|
| 受注者が契約する素材サービスの音源 | 商用利用や、クライアントの事業での利用が許されているか | 選んだ受注者が確認し、使用した音源の出所と利用条件を示せるようにする |
| SNSに内蔵された音楽ライブラリ | 個人アカウントと事業者アカウントで使える範囲が違うことが一般的 | 事業者アカウントで使えるかを確認する義務、指定のライブラリへの限定 |
| 発注者・顧客が指定した音源 | 指定した側が権利を確認しているか | 指定した側の責任と明記 |
| 流行している音源 | そのまま使う運用が最も事故を生む | 事前の承諾制にする |
提案書では、リール作成者には各SNSの音楽ライブラリで事業者アカウントでの利用の可否を確認する義務を置き、指定の音源ライブラリに限定するよう勧めました。
AIツールへの素材の入力と秘密保持
素材の外部への送信は、秘密保持の条とぶつかります。映像制作会社のフリーランス向け契約(委託者側)は、委託者の事前の承諾なく、一切の情報を生成AIサービスその他第三者が提供する外部サービスに入力・送信・アップロードしてはならない、としていました。レビューでは、生成AIへの入力を原則として禁止し、承諾したときは学習への利用の有無などを確認させ、生成物の権利侵害にも注意義務を課す三段構えを、業種に即した設計と評価しました。そのうえで、「第三者が提供する外部サービス」を文字どおり読むと、編集ソフトのクラウド機能、自動の文字起こし・字幕の生成、ノイズ除去や自動のカラーグレーディングなどのAI機能、クラウドストレージまで軒並み当たり、すべてを事前の承諾制にすると実務が回らず、守られない条項になって形骸化する、と指摘しています。
手当ての方向は、使ってよいソフトウェア・サービスを一覧にしてその範囲では包括的に承諾したものとし、それ以外への入力は個別の承諾制にし、学習への利用の提供やクラウドの同期など、設定で必ずオフにすべき項目を具体的に指定する、というものです。人物の顔や声は個人情報に当たり得るので、外国にある事業者のAIサービスに送る場合は、外国にある第三者への提供の制限(個人情報保護法28条)との関係も確かめます。
SNS運用代行会社の委託者側の依頼者原案(秘密保持契約)は、業務に必要な範囲で生成AIその他の外部サービスを利用できる、ただし秘密情報又は素材がAIモデルの学習その他業務以外の目的に利用される場合は入力・アップロードしてはならない、としていました。回答書では、学習などに利用されないことが確認できるサービスなら個別の承諾なく入力できる、という読み方になる、と整理しました。
ご質問と回答 クラウドやAIの利用の承認
クラウドや生成AIの利用を、そのたびに承認するのは煩雑です。
秘密保持契約に「承諾は、甲が使用を認めるサービス、保存先又は条件をあらかじめ書面又は電磁的方法によりまとめて示す方法によることができる」を加えました。生成AIは別の条で「学習等に利用されるものへの入力」だけを禁止しているので、学習に使われないことが確認できるサービスは個別の承諾が要りません。運用としては、承認済みのサービスの一覧に生成AIのサービスも含めて管理すればよい、と説明しました。
先のSNS運用支援の規約は、生成AIへの入力について、入力する情報を必要な範囲に絞ること、学習への利用の設定を無効にすること、顧客が利用を禁止するサービスを指定できること、を定めており、秘密情報と個人データの扱いとして先進的な書き方と評価しました。委託者が外注先に示すガイドラインの守らせ方はカメラマン・編集者に外注するときのページで扱います。
反対に、自分で自分に実行できない義務を課してしまう例もあります。SNS運用支援の規約は、外部のサービス提供者に開示する条件として、秘密保持の義務を契約・利用規約などで確保し「履行状況を適切に確認した上で」と定めていましたが、大手のクラウドや生成AIのサービスの履行状況を確認することは事実上できず、自ら課した義務に違反したと主張される余地を残していました。確認の方法と記録の範囲を、現実にできるものにしておく必要があります。
AI音声のナレーションと、顔・声のAIによる加工
AIで作った音声や、人物の顔・声を作り変える加工を使うかどうかは、発注者が想定していないことがあります。事務所の書類では、AIを使ってよい用途を業務の範囲や基本契約の中に書き出し、演者との契約では肖像・音声のAIへの利用を禁止する形を採ってきました。
AIの使い方を契約に書いた例
| 契約 | 書き方 |
|---|---|
| 地域のスポーツ教室から動画制作を受ける個人の基本契約(受注者側) | 業務の内容に「AI音声その他AI生成素材の選定および挿入」を明記。成果物に第三者の著作物・提供素材・AI生成物など受注者に帰属しない権利が含まれる場合、その権利は権利者に留保され、発注者はその利用条件に従う |
| SNS運用代行会社の外注契約(委託者側) | 受託者は、台本又は構成案の作成、画像又はイラストの生成、音声若しくはナレーションの生成、字幕の作成又は文字起こし、翻訳のために生成AIを使用できる。秘密情報・個人情報は、学習その他業務以外の目的に利用されるサービスには入力しない |
| 同じ外注契約の演者用業務仕様書 | 委託者は演者の事前の承諾なく、肖像・音声・映像を生成AIの学習用データにしたり、合成画像・合成音声・合成映像(ディープフェイクを含む)の作成に使ったりしない。演者も委託者の事前の承諾なく成果物を同様に利用しない(双方向) |
AI音声のナレーションを使うかどうかを、契約上「使ってよい用途」として明記しておくと、「AIを使うとは聞いていない」という不満を防げます。
SNS運用支援のレビューでは、プラットフォームによってはAIで生成・加工したコンテンツにその旨の表示を求めていること、顧客からAIを使ったこと自体の開示を求められることもあることも指摘しました。AIの使用の有無と表示の扱いを、契約か運用のルールで決めておきます。演者の側の権利の処理は出演契約書のページ、発注者の素材に映る人の同意は肖像権の同意書のページで扱います。
使ったかどうかを後から確かめられる仕組みも要ります。映像制作会社の契約のレビューでは、生成AIを使って成果物を作るときの注意義務はあるのに、どのツールをどの工程で使ったかを委託者に報告させる義務がない点を指摘しました。クライアントから「この納品物に生成AIは使われていないか」と問われる場面が増え、広告や放送の分野ではAI生成物の使用について表明保証を求められることもあるので、委託者がクライアントに答えるためには外注先からの申告が欠かせません。
AI生成物の権利と、発注者がAIを指定したとき
著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定めています(著作権法2条1項1号)。人の創作的な寄与がない生成物には著作権が生じない可能性があり、その場合は「著作権の移転」の対象そのものが存在しないことになります。地域のスポーツ教室から動画制作を受ける個人の基本契約(受注者側)では、成果物にAI生成物など受注者に帰属しない権利が含まれるときは、その権利は権利者に残り、発注者はその利用条件に従って成果物を使う、と定めました。映像制作会社の契約(委託者側)も、生成AIを使って成果物を作るときは第三者の権利を侵害しないよう注意する義務を外注先に課していました。権利が生じないかもしれない生成物について、移転を約束した形にしないための書き方です。また、既存の著作物との類似性と依拠性が認められれば、AIで生成したものでも著作権の侵害になり得ます(文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」令和6年3月)。運用支援の規約のレビューでは、こうした生成物の扱いの定めがない点も指摘しました。
条文例基本契約 第◯条(発注者が生成AIの使用を指定した場合)
1甲が、生成AIの使用方法、入力する素材又は指示の内容を指定した場合において、その指定に起因して第三者との間で紛争が生じたときは、甲が自己の責任と費用でこれを解決する。
2前項の規定は、乙が当該指定による権利侵害のおそれを知り、又は知り得たにもかかわらず、甲に報告しなかったときは、適用しない。
SNS運用代行会社の外注契約で、依頼者との協議を踏まえて置いた条の考え方です。
写真や映像をAIの学習に使わせない、という条項も増えています。撮影の再委託に伴う写真の利用許諾契約では、最終発注者に対し、写真を素材販売サイト、ストックフォトのサービス、生成AIの学習用データベース、機械学習モデルの学習データその他不特定多数が利用できる媒体に登録することを禁止しました。過去の映像作品について出演者側が利用の停止を求めた合意書でも、販売・掲載・配信・編集・加工などと並べて、AIの学習への利用や生成AIでの利用を新たな利用の禁止の対象に明記しています。
素材とAIで起きがちなこと
よくあるご質問
編集者が選んだBGMのライセンス違反は、誰の責任ですか?
素材を選んだ側が第一次的な確認の責任を負う、と分けるのが基本です。受注者が自ら用意する素材は商用利用が許諾されたものに限り、完成した動画を使う媒体を先に聞いてライセンスが用途に合っているかを確かめ、使用した素材の出所と利用条件を示せるようにしておきます。
SNSに内蔵された音源を使ってもいいですか?
個人アカウントと事業者アカウントで使える楽曲の範囲が違うことが一般的です。事業者アカウントで使えるかを確認する義務や、指定のライブラリに限る定め、流行の音源は事前の承諾制にする定めを置いておくと、投稿の削除やアカウントの制限を防ぎやすくなります。
文字起こしやノイズ除去にAIを使ってもいいですか?
契約しだいです。外部サービスへの入力を一律に事前承諾制にすると、編集ソフトのクラウド機能まで当たって守れない条項になりがちです。使ってよいサービスを一覧でまとめて承認し、学習などに利用されるサービスへの秘密情報の入力だけを禁止する形が実務的です。
AI音声のナレーションや、AIでの顔・声の加工はどう扱えばいいですか?
AI音声などを使ってよい用途を契約に明記し、どのツールをどの工程で使ったかを申告できるようにしておきます。演者との契約では、肖像・音声のAIの学習や合成への利用を、委託者と演者の双方向で禁止する例があります。
発注者からAIツールの使用を指定されて問題が起きたら?
発注者が使用方法や入力する素材を指定した場合は、その指定に起因する紛争は発注者が責任を負う、と書いておく方法があります(受注者が侵害のおそれを知りながら報告しなかった場合を除きます)。
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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご質問と回答として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた動画編集・映像制作の業務委託契約書、撮影の業務委託契約書、出演者の業務仕様書と本人同意書、撮影現場の秘密保持誓約書、撮影サービスの利用規約・キャンセルポリシー・重要事項説明書、収益分配型の業務提携契約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。フリーランス法の運用は、公正取引委員会・厚生労働省のQ&A(令和8年8月26日時点)によります。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法Q&A(公正取引委員会) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 特定商取引法ガイド(消費者庁)